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日経が、Financial Timesを買収:英ピアソン・日経の戦略について

日本経済新聞が、英Financial Timesを買収との報が世界を駆け巡っています。

国内では「驚いた!」という声も多いようですが、FT売却の噂はしばらく前から指摘されていたので、売却先がドイツのメディア大手Axel Springerではなく、日経だったという点が興味深いのだと言えます。

しかし、世界中で強いブランド力を放ち、課金戦略もそこそこ上手く行っているのでは?と見られていたFTが親会社から売却されたのはなぜでしょうか?

この手の話題は、すぐに国外のメディアが扱ってくれそうですが、取り急ぎその経緯を整理します。

 

まず、FTの親会社はPearson(ピアソン)という出版・教育事業を手がける会社です。1890年にサミュエル・ピアソンというイギリス人がはじめた企業で、出版事業に打って出たのは1920年代でした。

ロングマンという辞典を扱っていることでも有名ですし、ペンギン・ランダムハウスという世界最大の出版社の株主でもあります。そして、出版事業としてはEconomist Groupの株主だったりもします。

ロンドン証券取引所LSE)とニューヨーク証券取引所NYSE)に上場している巨大企業ではありますが、一方で近年ではデジタル・ラーニングや新興国での事業展開のために、リストラを断行するなど、出版部門は苦戦している様子も伺えました。

14年の決算を見ても、Financial Timesについてはデジタルへの移行に成功していると述べながらも、投資を継続する必要があることを明言しています。

PowerSchoolの売却やリストラなどで事業のスリム化を進めつつ、デジタル教材など教育分野での成長を見込んでいるピアソンにとっては、FTがどれほど国際的なブランドであったとしても、大きな成長を見込める分野ではないと判断したようです。

ちなみにピアソンの2014年度の売り上げ構成は以下の通り。

School:2,027(£ millions)

Higher Education:1,695

Professional:1,152

FTとEconomistが含まれるProfessionalは、もっとも小規模な事業ではあります。

ということで、この判断はピアソンにとってはそれほど意外性のある決定ではなく、むしろ新興国への投資を加速させる上では、十分にあり得る決定だったと言えそうです。

この発表が出てからのピアソン株は好調な推移を見せています。

LON: PSON - 07/23 15:57 GMT+1

1,232.00 Price increase 23.00 (1.90%)

 

ちなみに、これを日経側から見た場合は、彼らの戦略と合致します。

すなわち、同社は2015年を「新しい日経」が第2ステージに進む年、と位置付けていますが、その中核にあるのは海外展開や日経IDの活用です。

米・Evernoteとの提携や国内ではEventRegistへの出資など、投資案件を積極的に進めている日経ですが、その背景には日経IDを活用することで、収益の多角化を狙う姿勢が見られます。

今回、デジタル・サブスクリプションが好調なFTを買ったのは、彼らのブランドはもちろんのことですが、IDの統合や海外(特にアジア)展開における布石だと見ることができそうです。

1600億円は現在の日経が保有する現金と比較しても、非常に大きな買い物ですが、彼らが今後取っていく戦略のど真ん中をいくメディアが売りに出されているのは、大きな好機として捉えたのだと言えそうです。